2009-01-01から1年間の記事一覧

BPDの危険因子 BPDとトラウマ

他の深刻な疾患を罹った患者と同じように、多くのBPD患者もなぜ自分がこんな病気に罹ったのか思い悩む。 できればその原因を知りたいと思うのも当然だろう。 これまでにさまざまな心理学的理論が、その問いに答えることができると主張してきた。 たとえばBPD…

BPDという問題 その7

今回は「青年期にBPDの症状がみられた場合に、それをどのように捉えるか」という前回のテーマの続き。 前回も述べたように、これまでパーソナリティー障害の症状は、青年期後期に至るまで安定しないとされ、青年期の患者に対してはDSMの1軸障害(パーソナリテ…

BPDという問題 その6

話を本題に戻す前に、回り道をして論じておきたい問題がもう一つだけ残っている。 それは「青年期にBPDの症状がみられた場合に、それをどのように捉えるか」という問題である。 ここでいう青年期とは、思春期の発現から成熟にいたるまでの、身体的ならびに心…

BPDという問題 その5

BPD患者はどのような時に、どのくらいの頻度で自殺してしまうのか。 これは臨床家だけでなく、BPDに関わりを持つ全ての人にとって関心を持たずにはいられないテーマだろう。 自殺傾向はBPDの主な特徴の一つであり、多くの患者は実際に自殺企図を繰り返すのだ…

BPDという問題 その4

おそらく先に述べたような事情も手伝ってのことであろうが、BPDの転帰を調査する目的でおこなわれた前向き研究(Linksほか, 1998 ; Skodolほか, 2005 ; Zanariniほか, 2005b)では、遡及研究と比べても有望な結果が得られたものが多い。 ただしマクマスター大…

BPDという問題 その3

BPDについて論じる中で、その治療の難しさに触れない者はない。 たとえば一応「境界例の治療」について論じたはずの書物の中で、四半世紀以上にわたるその著者の、数百人におよぶBPD治療歴の中で、満足すべきかたちで終結を迎えた患者数は10人にも満たないな…

BPDという問題 その2

いまアメリカ精神医学会は、「境界性」パーソナリティー障害("borderline" personality disorder:BPD)という名前を変更できないかどうか、そしてさらにパーソナリティー障害自体をDSMの1軸へと移すことが出来ないかどうかを、真剣に検討しているところであ…

BPDという問題 その1

「境界例なんて診断をつけちゃダメだよ、黒田くん。あんなものはいずれ別の診断で置き換えられることになるんだから」 かなり以前に、ふたまわりは年長かと思われる先輩医師から、私はこのような忠告をされたことがある(その当時この障害は、よく「境界例」…

はじめるにあたって

これからしばらくの間、境界性パーソナリティー障害(BPD)について、とりわけその治療について論じていくことにしたい。 このような形で公にするのはなぜかといえばその理由は簡単で、2年以上も前から書き下ろしでBPDについて何か書くと書肆に約束しているに…