BPDの危険因子 社会的要因

これまでBPDの危険因子として取り上げてきたのは、主として個々の患者に対して特異的な影響を与えるような要因であった。 しかし多くの精神疾患の発症に関して、社会文化的要因が一般的な形で与える影響を無視することは出来ない。 ある種の心理的症状や精神…

BPDの危険因子  遺伝的要因

BPDの場合に限らず、「精神疾患と遺伝」というテーマは極めてデリケートなものである。 一般論としてなら、パーソナリティーに対して遺伝的要因が影響を与えていることに反対する者など誰もいないだろう。 だがこれが「パーソナリティー障碍の病因論」という…

BPDの危険因子 心理学的要因

これまでに数多くの精神疾患が、主として心理学的原因に基づいて発症するとみなされてきた。 問題の多い家庭内の経験が、こうした障害を引き起こすとされたのである。 たとえば私自身が研修医であった1980年代、統合失調症をそのような障害の一つであるとみ…

BPDの危険因子 BPDとトラウマ その3

これまでに述べてきたように、虐待をBPDの原因であると考える研究者は今ではほとんどいない。 では少なくともBPD患者に対して虐待がなされたことの、指標となるような症状はあるのだろうか。 少なからざる論者が、そうした症状はまさしく存在するのだと主張…

BPDの危険因子 BPDとトラウマ その2

虐待が子供に対して有害な影響を与えることに異論を唱えるものは誰もいないだろう。 問題はこうした経験が、後にBPDを含む精神疾患を引き起こすかどうかという点にある。 実はごく最近まで、この疑問に充分な精度で答えることが出来るような研究は存在してい…

BPDの危険因子 BPDとトラウマ

他の深刻な疾患を罹った患者と同じように、多くのBPD患者もなぜ自分がこんな病気に罹ったのか思い悩む。 できればその原因を知りたいと思うのも当然だろう。 これまでにさまざまな心理学的理論が、その問いに答えることができると主張してきた。 たとえばBPD…

BPDという問題 その7

今回は「青年期にBPDの症状がみられた場合に、それをどのように捉えるか」という前回のテーマの続き。 前回も述べたように、これまでパーソナリティー障害の症状は、青年期後期に至るまで安定しないとされ、青年期の患者に対してはDSMの1軸障害(パーソナリテ…

BPDという問題 その6

話を本題に戻す前に、回り道をして論じておきたい問題がもう一つだけ残っている。 それは「青年期にBPDの症状がみられた場合に、それをどのように捉えるか」という問題である。 ここでいう青年期とは、思春期の発現から成熟にいたるまでの、身体的ならびに心…

BPDという問題 その5

BPD患者はどのような時に、どのくらいの頻度で自殺してしまうのか。 これは臨床家だけでなく、BPDに関わりを持つ全ての人にとって関心を持たずにはいられないテーマだろう。 自殺傾向はBPDの主な特徴の一つであり、多くの患者は実際に自殺企図を繰り返すのだ…

BPDという問題 その4

おそらく先に述べたような事情も手伝ってのことであろうが、BPDの転帰を調査する目的でおこなわれた前向き研究(Linksほか, 1998 ; Skodolほか, 2005 ; Zanariniほか, 2005b)では、遡及研究と比べても有望な結果が得られたものが多い。 ただしマクマスター大…

BPDという問題 その3

BPDについて論じる中で、その治療の難しさに触れない者はない。 たとえば一応「境界例の治療」について論じたはずの書物の中で、四半世紀以上にわたるその著者の、数百人におよぶBPD治療歴の中で、満足すべきかたちで終結を迎えた患者数は10人にも満たないな…

BPDという問題 その2

いまアメリカ精神医学会は、「境界性」パーソナリティー障害("borderline" personality disorder:BPD)という名前を変更できないかどうか、そしてさらにパーソナリティー障害自体をDSMの1軸へと移すことが出来ないかどうかを、真剣に検討しているところであ…

BPDという問題 その1

「境界例なんて診断をつけちゃダメだよ、黒田くん。あんなものはいずれ別の診断で置き換えられることになるんだから」 かなり以前に、ふたまわりは年長かと思われる先輩医師から、私はこのような忠告をされたことがある(その当時この障害は、よく「境界例」…

はじめるにあたって

これからしばらくの間、境界性パーソナリティー障害(BPD)について、とりわけその治療について論じていくことにしたい。 このような形で公にするのはなぜかといえばその理由は簡単で、2年以上も前から書き下ろしでBPDについて何か書くと書肆に約束しているに…